2025年8月25日月曜日

植物病理学分野でのポリアミン 4

Polyamine 特に植物病理学の分野において  Phytoalexin(ファイトアレキシン)生成とポリアミンとの関係について その4


  今回は、阻害剤 DL-a-difluoromethyl ornithine (DFMO)のエンバク冠さび病菌の感染に対する影響について報告した学会発表の覚え書きです。

著者名を伏せ字にしているのは、個人情報のため。学会の講演要旨とかで名前が出る場合と個人のブログで名前が出るのには少し意味合いが違うと思うので。


昭和62年度 日本植物病理学会大会


(87)   ○○○○・△△△△・大石康晴・□□□

ポリアミン代謝阻害剤のエンバク冠さび菌の感染に対する影響について

DL-a-difluoromethyl ornithine (DFMO)およびDL-a-difluoromethyi arginine (DFMA)はポリアミン生合成過程のプトレシンの生合成阻害剤であり,前者はLーオルニチンの脱炭酸を阻害し,後者はアルギニンの脱炭酸を阻害する。冠さび菌の感染における特異性現象とポリアミン代謝の関係を調べる目的で,両阻害剤の冠さび菌の感染に対する影響について調べた。エンバク品種Pc-38-冠さび菌レース226(罹病性)の組合せで,接種後経時的に0.01~ lmMのDFMOおよびDFMAを接種部位上に塗布処理すると,接種後3日目までの0.25~lmM DFMO処理によって夏胞子形成が完全に阻止されることが判明した。DFMAでは感染阻害は起こらなかった。 DFMOによる阻害は接種2~24時間前に処理しても頸著であり, さらに, 接種24時間前後に非接種部位に処理しても顕著な感染阻止効果の移行が認められた。lmM  DFMOはスライドグラス上での胞子発芽および発芽管伸長をまったく阻害しなかった。DFMOによるポリアミン代謝阻害が冠さび菌感染菌糸の伸長阻害を起因すると考えられた。 (香川大農)



前々回に書いたように、植物と菌ではプトレシン合成の経路に違いがあり、阻害剤を使って実験する場合には菌側の影響も考慮しなければならない。

植物体に毒素や浸透圧ストレスでアベナルミンの生成誘導を行い、阻害剤でその影響を観る場合は植物体側の反応だけを考慮すれば良い。

もちろん阻害剤を用いる場合には、unknownなside effect が結果に作用しているとか、アルギナーゼ存在下でDFMAがDFMOに変換されるとかも考慮しないといけないが、まだ植物体と菌の感染の場合よりはデータの解釈が行いやすい。

植物に菌が感染している場合の抵抗性もしくは罹病生の関係で阻害剤を使った場合、抵抗性の組み合わせでDFMAがプトレシン合成を阻害し、その結果抵抗性反応の指標として観察しているアベナルミン生成が抑制されるというのは実験上の仮定と矛盾はしない。罹病生の組み合わせでDFMAを使った場合でも、抵抗性反応が無いのであるからプトレシンの増高もアベナルミンの生成が誘導されなくても仮定とは矛盾しない。

しかし、罹病性の関係でDFMOが菌の成長を妨げた場合は、解釈が難しくなる。

当時(1986年)に次のような論文が出された。

一つは、New Phytol. (1986) 104, 613-619

THE EFFECTS OF A POLYAMINE BIOSYNTHESIS INHIBITOR ON INFECTION OF 

VICIA FABA L. BY THE RUST FUNGUS, UROMYCES VICIAE-FABAE (PERS.) SCHROET

BY D. R. WALTERS

もう一つが、Plant Physiol. (1986) 82, 485-487

Kinetic Studies on the Control of the Bean Rust Fungus (Uromyces phaseoli L.) by an Inhibitor of Polyamine Biosynthesis 1

M. VENKAT RAJAM, LEONARD H. WEINSTEIN, AND ARTHUR W. GALSTON

これらの論文から、菌の感染にはODC経路を阻害するDFMOが影響を及ぼし、菌の感染阻害を引き起こす。

私たちの研究も同様の結果が観察され、エンバクのエンバク冠さび病菌に対する抵抗性発現を調べる上でDFMA,DFMOを用いた実験系のデータ解釈に有用な知見が得られた。

すなわち、抵抗性反応が起こる植物体と菌の組み合わせで、DFMOも菌の感染に影響を及ぼすので植物体側の抵抗性反応にも影響を及ぼすということである。







植物病理学分野でのポリアミン 3

Polyamine 特に植物病理学の分野において  Phytoalexin(ファイトアレキシン)生成とポリアミンとの関係について その3


 Ann. Phytopath. Soc. Japan 53 (1). January, 1987  98-99


Avenalumin production in relation to polyamine metabolism


 A mechanism of specific avenalumin production induced by a host-selective toxin, victorin was studied by using protoplast of oat cultivar possessing Pc-2 allele. Avenalumin, PA of oats, was produced in protoplast without Victorin treatment though the amount of avenalumin was fewer than that in the Victorin-treated. It was also found that avenalumin was secreted externally from protoplast.  When oat primary leaves whose lower epidermis has been removed were treated with mannitol solution more than 0.15M, avenalumin was produced and secreted from the leaf tissue, suggesting that avenalumin production was also induced by osmotic shock.

 A relationship between avenalumin production and polyamine metabolism was investigated since polyamine metabolism is enhanced by osmotic shock.   Avenalumin production in protoplasts was suppressed by exogenous addition of putrescine in mannitol solution. Avenalumin production in the epidermis-stripped leaves induced by victorin or osmotic stress was also suppressed by the putrescine treatment. Cadaverine and spermidine also inhibited avenalumin production. DFMA which is an inhibitor of putrescine synthesis via agmatine, suppressed avenalumin production, whereas DFMO, an inhibitor of putrescine synthesis via ornithine, didn't suppress. These results suggest that polyamine metabolism especially putrescine synthesis via agmatine may be associated with avenalumin production.


植物病理学分野でのポリアミン 2

 Polyamine 特に植物病理学の分野において  Phytoalexin(ファイトアレキシン)生成とポリアミンとの関係について その2


まず、初回に説明すれば良かったが、基本的な事を説明してから次回の学会発表の説明に移りたい。

基本説明1

ポリアミンとは、アミノ基を2つ以上持つaliphatic compound 脂肪族炭化水素を表す。

今回の話の中では、ジアミンであるプトレシン、トリアミンのスペルミジン、テトラアミンのスペルミンなどをメインにして話します。

ジ・トリ・テトラと言うのに、なぜポリの接頭語がつくのか?

ポリフェノールと同様にその種類の化合物が多く存在しているからだと思います。

今回注目しているのは、プトレシンの生合成経路が植物の病原菌に対する抵抗性に関与しているのではないかという点です。

植物にはプトレシン合成経路として、アルギニンを出発点とする経路とオルニチンを出発点とする経路がある。

L-Arginine  →  Agmatine  →  N-Carbamoylputrescine → 

                 1                      2                                     3

Putrescine

酵素名

1 Arginine Decarboxylase  (ADC)

2 Agmatine Imunohydrolase (AIH)

3 N-Carbamoylputrescine Amidohydrolase


L-Ornithine  →  Putrescine

酵素名

Ornithine Decarboxylase (ODC)


一方、一般的に植物以外の真核生物ではオルニチン経路のみによるプトレシン合成となる。従って、真菌類などもODC経路でプトレシンを合成する。


植物において、ストレス反応等に対応するプトレシン合成に用いられるのはADC経路であるので、プトレシン合成の特異的阻害剤の影響は実験に用いたエンバク冠さび病菌(ODC経路のみ)と植物のエンバク(ODC経路,ADC経路の2経路を持つ)では異なる反応を示すはずである。

エンバク冠さび菌に感染させたエンバク植物体のポリアミンの働きは、複雑であると考えられる。

先に述べたように、エンバクの葉にエリシターである毒素や浸透圧で誘導されるポリアミンは、植物体由来の生成物であるから阻害剤を与えた場合や外生的にポリアミンを与えた場合の結果を解釈するのは植物体だけのことを考えれば良い。

しかし、感染葉を用いた場合のポリアミン量の変動は、その変動が植物体によるものであるか病原菌側の代謝により生成されたのかを考えるのは単純ではない。


次回は、罹病生の関係にあるエンバクーエンバク冠さび菌感染葉でのプトレシン合成阻害剤DFMOの作用について報告した内容を説明する。


植物病理学分野でのポリアミン 1

Polyamine 特に植物病理学の分野において  Phytoalexin(ファイトアレキシン)生成とポリアミンとの関係について 

 

これは、私の覚え書きです。

研究の発表は、論文発表ではなく学会発表程度のものですし、大昔のことなので実験データとかはありません。

ではまず書いてみましょうか。


1985年に、エンバク(oat  Avena sativa L.)という植物を用いてエンバク冠さび病菌(Puccinia coronata f. sp. avenae)に対する抵抗性発現の研究を行っていた。

抵抗性発現の指標としエンバクのphytoalexin ( アベナルミン avenalumin )の産生を観察していました。

プロトプラストを用いて実験系を確立できないかを検討している際に、浸透圧ストレスによりアベナルミンが生成誘導されているのではないかと考えられる現象がありました。

まず、植物の病原菌に対する抵抗性反応について大まかに説明します。

植物が元々持っている成分で菌の侵入を防いでいる場合と、菌が植物体に侵入してそれに対して抗菌性物質を作り菌の侵入を阻止する場合があります。(ちょっと大雑把すぎか・・)

植物のエンバクは、エンバク冠さび病菌に抵抗性反応を示す場合に様々な反応を引き起こしますが、私たちはavenaluminという抗菌性物質の生成を抵抗性発現の指標として研究を行ってきました。

avenaluminはエンバク冠さび病菌の感染に対してだけではなく、エンバクがPC-2遺伝子を持っている場合に宿主特異的毒素(victorin)を処理することでもavenaluminの生成誘導がされることが知られていた。実験に用いたエンバクは2品種で、宿主特異的毒素に対する感受性品種(Iowa×469)と非感受性品種(Iowa×424)である。

毒素victorinに対してプロトプラストがどのような反応するかを調べる実験で、対照区の毒素無添加区で2品種ともavenaluminの産生が見られました。

毒素感受性品種Iowa×469では、毒素低濃度区でもアベナルミンの産生が認められた。その際のプロトプラストの生存率は毒素無添加区と変わらず高い生存率を示していました。

では、毒素高濃度区ではどうなったかというと、プロトプラストの生存率は0%で、アベナルミンも産生されませんでした。

ここで問題となるのは、毒素無添加区の対照区でもavenaluminが産生されたことです。
これは、実験に用いた初生葉からプロトプラストを作る際の酵素による細胞壁分解などに因るものなのか、浸透圧によるものかを検討するためにまず浸透圧の影響を調べました。
浸透圧の影響を調べたのはプロトプラストではなく、初生葉の裏面表皮を剥いだものを用いて調べました。

両品種ともに浸透圧調整液(マンニトール 0 ~ 0.6M 実験で用いた濃度)0.2M以上でアベナルミンの産生誘導が観察されました。
Iowa×469では、0.4Mでアベナルミンの産生誘導が最も高く、0.6Mでは生成誘導が減少した。
Iowa×424でも0.6Mまでアベナルミンの生成誘導が観察されたが、全体的にIowa×469よりアベナルミンの産生量は少なかった。

この実験では、浸透圧により抵抗性反応の指標としてのアベナルミンが産生誘導されるかどうかを調べるためだけのもので、エンバクの数多くある品種ごとやマンニトール濃度の変化に伴うアベナルミンの産生誘導を厳密に調べたものでは無い。従って0.6Mより高い濃度については調べてはいない。

当時は、植物病理学の分野でポリアミンという言葉はあまり出てこなかった。

植物病理学関連の本でポリアミンという言葉が出てきたのは、平井先生の「植物ウイルス学」でウイルスのDNAにポリアミンが含まれるという程度だったと思う。

植物生理学の本でもポリアミンというのは記載されていなかったと思う。


エンバクにおいて、浸透圧がポリアミンの代謝に影響するという論文が発表されていたので浸透圧ストレス( osmotic stress )がavenaluminの産生に影響を及ぼし、ポリアミンが抵抗性反応に関与しているのではないかと考えた。

まず、ポリアミンの特異的阻害剤を用いてavenaluminの産生に対する影響を調べてみました。

結果は、学会発表という形で発表しました。


1986 昭和61年度 日本植物病理学会関西部会にて発表

(8)     ○○○○・大石康晴・△△△    個人情報保護のため伏せ字

アベナルミンの生成誘導機構,とくにポリアミン代謝との関係について  


Pc-2遺伝子保有エンバクのプロトプラスト系を用いて,victorin (vic)によるavenalumin (avl)の特異的生成誘導機構について検討している過程で,毒素無処理区のプロトプラストでもavlが産生,分泌されることが判明した。さらに,表皮剥離葉をmannitol液で処理すると0.15 M以上の同溶液でavlが生成され,osmotic  shockによってもavl生成が誘導されることを認めた。エンバク細胞ではosmotic shockを受けるとポリアミン代謝が増高することが知られているので,vicおよびosmotic   shockによる avl生成誘導とポリアミンの関係について調べた。

putrescine (1mM)を処理するとプロトプラスト系でのavl生成は著しく抑制され,初生葉でもvicおよびosmotic shockによるavl誘導は顕著に阻害された。cadaverineとspermidineも同様の阻害効果を示したが,これらの原因については不明である。

つぎに,ポリアミン生合成の阻害剤 DFMA(difluoromethylarginine)とDFMO(difluoromethylornithine)で処理すると,DFMAによってavl生成が顕著に阻害され,avl生成におけるポリアミン代謝の関与が示唆された。

(香大農)


今回はここまでということで。


2025年8月9日土曜日

イネ内穎褐変病かな?

ブラシンジョーカーを散布してるときに見つけた。

カメムシ対策ではトレボンを10日前に散布はしているのでOKかな。
イネ内穎褐変病かどうかははっきりしないが、出穂期高温だと発生し易いとの文献がある。
今年の暑さは異常だ。

2025年4月20日日曜日

ブログ漂流 初投稿

 ネットでホームページを作成したり、ブログを書いてきたが、すべてプラットホーム側の都合でサービスが継続できなくなり色々渡り歩いてきた。

今回もgooがブログを閉鎖するとのことで、ここにたどり着きました。

少し試してみます。

試運転中です。


植物病理学分野でのポリアミン 4

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