Polyamine 特に植物病理学の分野において Phytoalexin(ファイトアレキシン)生成とポリアミンとの関係について その4
今回は、阻害剤 DL-a-difluoromethyl ornithine (DFMO)のエンバク冠さび病菌の感染に対する影響について報告した学会発表の覚え書きです。
著者名を伏せ字にしているのは、個人情報のため。学会の講演要旨とかで名前が出る場合と個人のブログで名前が出るのには少し意味合いが違うと思うので。
昭和62年度 日本植物病理学会大会
(87) ○○○○・△△△△・大石康晴・□□□
ポリアミン代謝阻害剤のエンバク冠さび菌の感染に対する影響について
DL-a-difluoromethyl ornithine (DFMO)およびDL-a-difluoromethyi arginine (DFMA)はポリアミン生合成過程のプトレシンの生合成阻害剤であり,前者はLーオルニチンの脱炭酸を阻害し,後者はアルギニンの脱炭酸を阻害する。冠さび菌の感染における特異性現象とポリアミン代謝の関係を調べる目的で,両阻害剤の冠さび菌の感染に対する影響について調べた。エンバク品種Pc-38-冠さび菌レース226(罹病性)の組合せで,接種後経時的に0.01~ lmMのDFMOおよびDFMAを接種部位上に塗布処理すると,接種後3日目までの0.25~lmM DFMO処理によって夏胞子形成が完全に阻止されることが判明した。DFMAでは感染阻害は起こらなかった。 DFMOによる阻害は接種2~24時間前に処理しても頸著であり, さらに, 接種24時間前後に非接種部位に処理しても顕著な感染阻止効果の移行が認められた。lmM DFMOはスライドグラス上での胞子発芽および発芽管伸長をまったく阻害しなかった。DFMOによるポリアミン代謝阻害が冠さび菌感染菌糸の伸長阻害を起因すると考えられた。 (香川大農)
前々回に書いたように、植物と菌ではプトレシン合成の経路に違いがあり、阻害剤を使って実験する場合には菌側の影響も考慮しなければならない。
植物体に毒素や浸透圧ストレスでアベナルミンの生成誘導を行い、阻害剤でその影響を観る場合は植物体側の反応だけを考慮すれば良い。
もちろん阻害剤を用いる場合には、unknownなside effect が結果に作用しているとか、アルギナーゼ存在下でDFMAがDFMOに変換されるとかも考慮しないといけないが、まだ植物体と菌の感染の場合よりはデータの解釈が行いやすい。
植物に菌が感染している場合の抵抗性もしくは罹病生の関係で阻害剤を使った場合、抵抗性の組み合わせでDFMAがプトレシン合成を阻害し、その結果抵抗性反応の指標として観察しているアベナルミン生成が抑制されるというのは実験上の仮定と矛盾はしない。罹病生の組み合わせでDFMAを使った場合でも、抵抗性反応が無いのであるからプトレシンの増高もアベナルミンの生成が誘導されなくても仮定とは矛盾しない。
しかし、罹病性の関係でDFMOが菌の成長を妨げた場合は、解釈が難しくなる。
当時(1986年)に次のような論文が出された。
一つは、New Phytol. (1986) 104, 613-619
THE EFFECTS OF A POLYAMINE BIOSYNTHESIS INHIBITOR ON INFECTION OF
VICIA FABA L. BY THE RUST FUNGUS, UROMYCES VICIAE-FABAE (PERS.) SCHROET
BY D. R. WALTERS
もう一つが、Plant Physiol. (1986) 82, 485-487
Kinetic Studies on the Control of the Bean Rust Fungus (Uromyces phaseoli L.) by an Inhibitor of Polyamine Biosynthesis 1
M. VENKAT RAJAM, LEONARD H. WEINSTEIN, AND ARTHUR W. GALSTON
これらの論文から、菌の感染にはODC経路を阻害するDFMOが影響を及ぼし、菌の感染阻害を引き起こす。
私たちの研究も同様の結果が観察され、エンバクのエンバク冠さび病菌に対する抵抗性発現を調べる上でDFMA,DFMOを用いた実験系のデータ解釈に有用な知見が得られた。
すなわち、抵抗性反応が起こる植物体と菌の組み合わせで、DFMOも菌の感染に影響を及ぼすので植物体側の抵抗性反応にも影響を及ぼすということである。